A.山歩き/2.山紀行/・・美ケ原・茶臼山・物見石山

美 ケ 原
〜 県民の森から茶臼山 〜





県民の森から茶臼山へ('05-07-22歩く)

登りついて不意に開けた眼前の風景に
しばらくは世界の天井が抜けたかと思う
やがて一歩を踏みこんで岩にまたがりながら
此の高さにおける此の広がりの把握に尚もくるしむ
無制限な おおどかな
荒っぽくて 新鮮な
此の風景の情緒はただ身にしみるように本源的で
尋常の尺度にはまるで桁がはずれている
秋が雲の砲煙をどんどん上げて
空は青と白との目も覚めるだんだら
物見石の準平原から和田峠の方へ
一羽の鷲が流れ矢のように落ちていった

美ヶ原の美しの塔に尾崎喜八の上の詩が刻まれている。この美しい詩は百曲がりを登り詰め美ヶ原の溶岩台地 に達した時の喜びから生まれたという。 溶岩台地まで車道が上がり、美ヶ原は観光地化されているが、そこまでのアプローチは昔の面影が残っているのではないだろうか。一度、 百曲がりを通って尾崎喜八さんの感覚を幾分でも味わって見たいものだと思っていた。
諏訪ICから霧が峰に上がると、ニッコウキスゲの花が今が盛りと咲いている。それを横目に和田峠・扉峠へとビーナスラインを進む。 扉峠から三城牧場(さんじろぼくじょう)を目印に松本の方に向う。折角、扉峠まで上がったのに、どんどんと下り、茶臼山から王ケ鼻にかけての右側に見え隠 れする絶壁の尾根がどんどんと高くなってくる。しばらくすると右側に県民の森と書かれた立派な柱の看板が立ち、その右に森に入る道が見える。
地図によると三城牧場と県民の森の広小場というところに駐車場がある。どちらにしょうかと決めかねていたが、最初に目に付いた 県民の森の看板、広小場の方に向う。道はダートであるが、整備されていて走りやすい道である。カラマツ林の中を行くと中央キャンプ場 というところになり車もおけるが、地図に従って先に進むと、林道は終点となって駐車スペースとトイレのある広小場に着く。
案内板の略図を見ると、広小場は茶臼山・美ヶ原牧場周回の基点として最適であった。どちら廻りで周回するか。 百曲がりは、以前、山本小屋から茶臼山往復してたとき眼下に切れ落ちた絶壁のように見えた。登るのはきつそうに思えたので、楽そうな 茶臼山遊歩道の方から登ることにした。県民の森案内板や道標が新しくなっている。
心地よいせせらぎの音と小鳥のさえずりを聞きながら、大門沢沿いの山道を緩やかに登ってゆく。 すぐ、カラマツ、コメツガ、さわら、潅木の混じる薄暗い森と伏流水の石のごろごろ転がっている沢沿いの道となる。 道は石が多くて歩きにくい。景観のよい道と思ったら期待はずれであった。時々、日差しの入るところにはコオニユリが咲いていて 気持ちを紛らわせてくれる。
約40分ほど登ると、左岸の道は右岸に渡り、歩きにくかった石の多い道とはお別れして、カラマツの美林の斜面を 稲妻状に登って行く。それから20分ほど登ると道はまた沢に近づて源流に達し、小さな岩場の鎖場となる。鎖を使うほどでない岩場を登り、振り返ると、 樹間から美ヶ原の大きな船体のような溶岩台地が見えてくる。ずいぶん登ってきたと実感する。ここからはコメツガの多い斜面を時々樹間から溶岩台地 を見ながらジグザグと登って行く。
そろそろ尾根かと思うが、なかなか尾根に達しない。上にピークらしいものが見えてきて、そこまでかと思ったら、道は ピークの右を巻くようにトラバースしてゆく。やがて左斜面の木々が伐採され、大きな板状のアンテナが立つ、開けたところに達し、右手にはアンテナの林立する 溶岩台地が大きく見える。ここまで、広小場から1時間25分であった。5分ほどカラマツ林のトラバース道を巻いて行くと右手前方に ようやく尾根とロッジの屋根が見えてきて、やがてロッジの上の分岐点に達した。
ここから左へ、下生えが小笹のカラマツの明るい道を登って行く。アキアカネが飛び交い、もう山の上は秋が忍びよってきているようだ。5分ほどで 見覚えのある山頂に着いた。誰もいない静かな山頂である。アキアカネが時々吹き抜ける風に任せて飛びかっている。 周囲の重なる山並みはかすみ、水墨画のように遠くになるにしたがって薄くなり、空に消えて行っている。
小休止の後、美ヶ原牧場の塩くれ場の方に下る。前方下をみると、くねりながら伸びる登山道のトレースのはるか先に王ケ頭のアンテナ群が林立している。 足元では、ウツボグサやフウロウが咲いている。ヤナギランはまだ早いようだ。茶臼山の斜面を下り、溶岩台地のガレ場に降り立つと、傍の深緑の草原には星をちりばめたように フウロウが点在し、ところどころにコウリンカが群生している。
山道はクランク状の牧柵の入り口を経て、牧場に入ってゆく。古いガイド(山渓、アルペンガイド 美ガ原・霧ガ峰・蓼科1988年)によると、ここは「夢ノ遊歩道」と名づけら れているお花畑の道ということである。8月にはもっと花が咲くのであろうか、今はフウロウ、ウツボグサくらいで少ない。広い広い地平線、大きく 広がる空、ぽっかりと浮かび流れる雲、沸き立つ雲、のんびりと草を食む乳牛、花はないが、さわやかな牧歌的な牧場の風景である。
やがて、塩くれ場に近い牧場の出口となる。以前来た時、道標が朽ちていて、牧場の茶臼山への登山口を探すのに手間取ったが、牧場の山道を出たところには真新しい道標が立って いた。牧柵をでて広い道を左に行く。両側の端には花が多い、ニッコウキスゲ、イブキトラノオ、コウリンカ、フウロウ、タカネナデシコ、 ・・・。花を愛でながら行くと、百曲がりの切り立つた崖の縁となり、木に似せたコンクリート製の柵がある。
百曲がりは右側の傾斜の 幾分緩やかな尾根に沿って下っている。下りながら、立ち止まっては後ろを振り返り、尾崎喜八さんの詩を思い出しながら、写真を写す。 思ったような写真にはならなかったが、気持ちだけは実体験できた百曲がりであった。
百曲がりは花が多い。ミヤマシャジン、ニッコウキスゲ、フウロウ、ウツボグサ、オヤマボクチ、ミヤマキンバイ、イブキトラノオ、 シシウド、カワラマツバ、シュロソウ、ハナチダケサシ、クガイソウ、オダマキ、アザミ、ギボウシ・・・などである。 45分も花を愛でながらのんびり下ると、樹林帯に入る。やがて、下のほうから沢のせせらぎが聞こえてくると、広小場もまもなくであった。
大門沢の冷い清冽な流れの傍の草地の広場が広小場のキヤンプ場になっている。はるか昔の話であるが、尾崎喜八は この広場でヒメギフチョウを採集したという。そんなこともあったのかと、キャンプ場のベンチに腰掛けて、ヒメギフチョウの飛び交うのを想像したりしながら、遅い昼食をとり、 追想の山歩きを終えた。

(コースタイム)
自宅4:10==相模湖IC5:25==双葉IC6:14〜34==諏訪IC7:23==広小場(P)8:20〜40−尾根(分岐)10:15−茶臼山山頂10:20〜32− 牧場出口(塩くれ場側)11:25−百曲がり下降点11:33−広小場(P)12:35

(地図)
・昭文社 山と高原地図 「八ヶ岳 蓼科・美ケ原・霧が峰 2003年版」




茶臼山のアキアカネ




王ケ頭へ続く溶岩台地の山道




美ケ原牧場




百曲がりを登り来て




百曲がり、途中で仰ぎ見る

< なお、写真はCanon EOS kiss DN / EF-S10-22mmで撮影しました >