A.山歩き/2.山紀行/・・秋田駒ケ岳


秋田駒ケ岳
( 1637.4 m )


阿弥陀池から岩手山


八合目駐車場から秋田駒ケ岳 ('07-09-14)
白みかけてきた東の空、霧の切れ間の山並みのシルエットの上に明けの明星が輝いている。 霧に覆われた地平線、蒼の濃淡さまざまなシルエットの民家や木立ちが立ち並んでいる。まるでおとぎの国の影絵のようである。
車を停めて写したいが、上の高原には霧のブナ林が待っているに違いない、と思うとなかなか決心がつかない。そのうち、風景が遠ざかってゆく。 ところが、やっと着いた乳頭温泉郷休暇村のブナ林には期待の霧はなかった。がっかりである。これも出会いと、思い直して写す。しかし、なかなか気持が乗らない。早々に切り上げて、秋田駒ケ岳に登 ることにして、八合目の登山口の駐車場に向う。

今は夏の花の時期と紅葉の時期の間の端境期、駐車場は閑散としている。終わりかけたハハコグサやトリカブト咲く山道を男女岳の右を巻きながら 登って行く。振り返ると阿仁の方であろうか、雲が盆地を覆うように垂れ込めている。あのような雲がブナ林に欲しかったなと思いながら 高度を上げてゆくと、後ろに乳頭山と岩手山が見えてくる。秋田駒と乳頭山は若かりし頃山登りを始めた時の原点の山であり、 懐かしさがこみ上げてくる。
35分も登ると山道の傾斜は緩み、男女岳と男岳の間の阿弥陀池へと廻りこんでゆく。地図では田沢湖も見えることになっているが 靄のせいかはっきりしない。やがて木道になり、夏の季節ならばいろいろな花が咲いているだろうが、ウメバチソウや終わりかけて色の変わったリンドウがポツリ、 ポツリと咲いている程度である。東北の山の夏は短い。秋田駒は花の山であるので、かすかな望みを持って登ってきたがもう花は期待できないようだ。 風景を楽しむことにする。
まもなく阿弥陀池に着く。 池に沿って左右に木道が分かれている。男女岳の写りこみを写すために西側の木道を行く。写り込みを写しながら行くと、池の向こうに岩手山が顔をだしてくる。 よく来たなといってくれているようで懐かしい(上の写真)。小屋に着くと岩手山が蒼く大きく見え、眼下の浄土平には夏にはにぎわったであろう木道が静かに連らなっている。 後を見ると、さざ波立つ阿弥陀池の上の男岳と男女岳の間のV字の空と雲が高い。山は夏の名残のなかを着実に秋へと向かっているようだ。
この後、男女岳へ向う。ハハコグサ咲く木段の道を空に向って登って行く。20分位で山頂に着く。眼下の阿弥陀池、その向こう上に奥羽山脈が左に雲海をたなびかせながら 連なっているのが見える。帰りは浄土平径由、硫黄鉱山跡地を経て下ろうかと最初に思っていたが、奥羽山脈の連なりが魅力的である。登り返すのは辛いが横岳経由で八合目駐車場に 戻ることにする。
阿弥陀池に下り、男岳と横岳の間の尾根に向って登り返す。尾根に登り着くと、反対側に阿弥陀池とまた違った 世界の風景が眼下に展開している。それはすっかり忘れかけていた風景だった。左の国見温泉からの長い尾根と右の男岳の荒々しい岩壁に囲まれた優しく頭を傾けた女岳の噴火口であった。 その周りを首飾りのように白い木道が連なり、小さな池が宝石のように光っている。
徐々に思い出した。もう50年もむかし登った記憶である。あの頃は 国見温泉からもっぱら登っていた。国見温泉から尾根に登りきると、女岳やハイマツの緑に赤い絵具を散りばめたような紅葉の斜面が眼に飛び込んできて 感激したこと、それから右の砂礫のコマクサの咲く尾根を強風に煽られ四つんばいになりながら横岳に登ったこと、などを思い出した。 横岳方面に登ってきたのは奥羽山脈の連なりの他に目に見えない何かに引かれたからではないかと、ふと、思った。
写すたびに記憶が蘇るようで、懐かしい風景を横岳で何十枚となく写した。 そして過去から現在にワープするように焼森へと向う。下る砂礫の尾根の真正面に岩手山が高く象徴的に浮かんでいる。右手の盛岡方面は雲海に覆われ、奥羽山脈の山並みの稜線の連なりまで繋がっている。本当に絶景である。
やがて山道は左に折れて岩手山ともお別れし、荒れた道を涸れ沢に向って一気に下ると、また潅木の緩やかな尾根を行く。そして駐車場が潅木の間から眼下に見えてくるとまもなく八合目に着いた。 花は余りなかったが、昔を思い出させてくれた懐かしい充実した山歩きであった。


(地図)
・ 昭文社 山と高原地図 「岩手山・八幡平・秋田駒」

(コースタイム)
八合目駐車場(P)6:50--木道8:00--阿弥陀池8:16〜30--男女岳8:49〜53 --阿弥陀池9:15--横岳9:35〜40--焼森9:55--焼森分岐9:59--八合目駐車場(P)10:50





見えてきた阿弥陀池





静かなるたたずまい、阿弥陀池・男女岳





阿弥陀池の空





さらば男女岳・阿弥陀池





首飾りの女岳と奥羽山脈の連なり





遥かなる岩手山





[Canon EOS kiss DN/SIGMA 17-70mm DC ]